リハビリテーション
リハビリステーション部門の方針
入院: 脳血管疾患による麻痺症状のみられる患者さまや肺炎等により長期臥床を余儀なくされた患者さまを中心に、早期からのリハビリテ-ションを実施する。全身状態が安定ししだい、早期より理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)の共同による個別療法を開始する。個々の患者さまに必要なリハビリテ-ションサービスの提供に努め、機能の回復、ADL(日常生活活動)の向上を目指す。
外来: 退院後さらなる機能回復に努めQOL(生活の質)の向上を目指す。同時に退院後に生じた新たなる問題点に対し、適切な対応を行っていく。この際、適切な社会資源ならびにサービスの利用をしっかり念頭に置いて患者さまに対応していく。
訪問: 外来通院の困難な患者さまや、在宅生活を送る上でリハビリテ-ションの必要性のある方への訪問リハビリテ-ションを実施とする。在宅生活を送りながら、在宅生活に必要なQOLの低下をきたさないよう適切なサービス提供に努める。
リハビリテ-ション部門職員心得
1. 患者さまへは明るく・元気に・活気を持って対応します。
2. 患者さまへの適切な介助と誘導を実施します。
3. 患者さまの回復意欲が増すよう努力します。
4. 患者さまの機能回復が十分進むよう努力します。
5. 患者さまの治療場面で危険が伴わないよう細心の注意を払います。
6. 記録・連絡は密に行い、患者さまの情報の共有に努めます。
7. 患者さまの言葉に耳を傾け、しっかりと患者様の要望を探ります。
8. 患者さまの要望に適切に対応できるように努力します。
理学療法士(PT)の役割
リハビリテ-ション部門の中で、基本的動作能力等の回復を目的に実施される理学療法を提供します。理学療法は、関節可動域訓練、筋力増強訓練、起居動作訓練等の運動療法と、ホットパック、牽引療法等の物理療法に大きく分けられます。運動療法と物理療法と上手く使うことで、患者さんの能力アップを目指していきます。
以下に簡単に運動療法と物理療法の代表的なものを示します。
運動療法の種類
1.関節可動域訓練(Range of motion exercise:ROM ex)
目的: 関節運動範囲の維持及び増大
関節拘縮の予防
・拘縮によって起こってくる問題点
1.上肢の拘縮: 更衣など、身の回りの動作の障害を引き起こす
2.下肢の拘縮: 運動麻痺や筋力低下が軽度でも、起立、歩行といった移動動作が困難となる
*強い両下肢の屈曲拘縮:排泄・更衣などの介護に大きな障害となる
2.筋力増強訓練
目的: 廃用性筋萎縮の予防
健側強化
・廃用性筋萎縮とは?
最大筋力の20~30%の筋収縮を行うことによって筋力は維持
最大筋力の30%以上の筋収縮を行うことで筋力は徐々に増加
日常生活での筋収縮力が常に最大筋力の20%以下であれば筋力は徐々に低下
↓
絶対安静の状態で筋収縮を行わないでいると、1週間で10~15%の筋力低下をきたすとの報告がある
・健側の強化とは?
麻痺のごく軽度のものを除き、ほとんど健側によって動作が実施される
基本的に健側の機能によって患側の障害を補う
健側機能の低下によって、歩行を含めた日常生活動作の自立が困難となることがある
3.座位耐性訓練
目的: 過度の安静による廃用症候群の予防
車椅子座位獲得によるリハビリテーション室での本格的訓練の開始
注意点: 脳卒中急性期の数日間には、再発・進行が2~5割に見られる
座位による急激な血圧低下が増悪の誘因となることがある
↓
発病後数日間は必要時以外は安静が無難である
4.ADL訓練(Activities of daily living exercise:日常生活活動訓練)
日常生活に結びつけられるような様々な動作の習得。
例) 1. 車椅子からベッド(ポ-タブルトイレ等)への移乗
2. 起居動作の習得
3. 更衣動作、整容動作の習得
4. 靴の脱着動作の習得
5.起居動作訓練
ベッド上での寝返り、起き上がり、いざり動作の習得。
四つ這い→膝立ち→片膝立ち→立位という一連の動作の習得。
物理療法の種類
1.ホットパック
適応 1. 疼痛緩和:外傷後の痛み、変形性関節症、関節周囲炎の痛み、腰痛症など
2. 知覚過敏・異常の緩解:神経麻痺の時の不快感、こわばり感
3. 筋スパスムスの緩解:いわゆる肩こりなど
4. 中枢性麻痺時の筋痙直緩解
5. 局所の浮腫減退
6. 血行改善、局所栄養改
7. 他の理学療法の前処置
関節拘縮治療の前処置(疼痛緩解と組織の軟化)
運動療法時の前処置(筋スパスムス、疼痛の緩解)
牽引療法時の前処置(筋スパスムスの緩解)
2.極超短波(マイクロウェーブ)
適応 ホットパックに準ずる
*深部、特に筋・関節を加熱するのに適している
3.牽引療法(頸椎・腰椎)
適応 a)頸椎牽引の場合
1. 頚部椎間板ヘルニア、椎間板変性、変形性脊椎症など
2. 頚肩腕症候群と呼ばれている頚部・肩・胸部から手指にかけての疼痛、
痺れなどの症状を示すもの
3. 頚部、肩、上腕、肩甲間部に及ぶ筋痛、こわばりなどを主訴とするもの
4. 頸椎の外傷に基づく一連の症状
5. 頭重感(特に後頭部)、肩こり、眼精疲労、鼻閉、咽喉異物感、めまい、耳鳴り、難聴などの症状を単独または合併して訴える posterior
cervical sympathetic syndromeと呼ばれるもの
b)骨盤牽引の場合
1. 腰仙部の椎間板ヘルニア、椎間板変性、椎間関節の障害、変形性脊椎症、靱帯の肥厚などによって起こる腰痛及び坐骨神経痛群
2. 腰部にこわばり、不快感を訴えるもの
3. 分離症、すべり症などで腰痛・坐骨神経痛様症状を訴えるとき
作業療法士(OT)の役割
作業療法士は、医師の指示の下,適切な評価・問題点の抽出・適切なゴール設定を行い、様々な作業活動を用いて訓練を行います。また、それぞれの患者様の状態に合わせ、食事・排泄・更衣・入浴・整容などの身の回りの動作の獲得・家事動作や仕事への復帰を目指した訓練を行います。
さらに、退院後の生活環境整備や家族・介護者への説明、福祉用具の選択を行い、患者様が快適な生活を送れるように援助を行います。
身体機能(上肢・下肢・体幹)の訓練
手足・体幹の麻痺や筋力低下に対して、手芸や木工・ゲームなどを用いて、手先の細かな動きの獲得や筋力・バランス能力の向上を図ります。また、作業活動を通して、全身の持久力・耐久力の改善を図ります。
日常生活動作訓練
食事・排泄・更衣・入浴・整容などの実際の生活に必要な動作について、患者様の状態に合わせて訓練を行います。
家事動作訓練
調理・掃除・外出・買い物などの家庭や社会生活を営む為の生活に関する動作の訓練を行います。
高次能機能訓練
手足の麻痺の様な目に見える障害とは別に、生活に必要な時間・物の扱い方・周囲の状況の認識、物事の記憶、計算、動作の順序や方法を決定し遂行していくなどの能力(高次能機能)を評価し、その能力の回復を促すとともに、損なわれた部分を補いながら、目的を果たせるように訓練を行います。
利き手交換訓練
利き手に障害をもつ患者様に、箸の使用や書字など利き手交換する為の訓練を行います。
自助具の選択・訓練
患者様の状態に応じて、どうしても行えない動作を可能にするための道具(自助具)の選択を行い、操作方法などの訓練を行います。
家族・介護者への指導
必要に応じて、ご家族の方へ適切で効率的な介護方法を指導・説明を行います。
家屋改造(自宅訪問)
患者様がより安全で、より長くご家族との生活が送れるよう、手すりの設置、段差の解消、福祉用具の導入などを行います。
言語聴覚士(ST)の役割
言語聴覚士とは、言葉によるコミュニケーションに問題のある方に専門的サービスを提供し、コミュニケーションの面から豊かな生活が送られるよう支援する専門職です。また、摂食嚥下(食べる事)の問題にも専門的に対応します。
言葉によるコミュニケーションの問題は、脳卒中後の失語症、声や発音の障害、高次脳機能障害(記憶障害や注意障害など)など多岐に渡ります。言語聴覚士はこのような問題の本質や発現メカニズムを明らかにし、対処法を見出すために検査・評価を実施し、必要に応じて訓練、助言を行います。このような活動は、医療・福祉専門職などと連携し、チームの一員として行います。
当院のSTの特徴
言語療法室は、広々とした部屋での言語訓練(個別療法)が可能です。
当院では、主に脳卒中や頭部外傷などの脳損傷により言語障害(失語症・運動障害性構音障害など)を呈した入院患者様に対して、発症後早期より言語機能の改善を促進する訓練を実施しております。外来において、言語機能の改善、残存機能の活用促進、QOL(生活の質)の向上を目的とした訓練を実施していきます。
言語訓練
脳卒中後の言語障害は、主に失語症と運動障害性構音障害に分けられます。
失語症とは言語の「話す・聞く・読む・書く」といった4つの側面が障害されるもので、「言葉が理解できない」「言葉がうまく出てこない」「読み書きができない」といった症状を認めます。患者様の症状に合わせて、絵カードなどの教材を用いながら、発話や読み書きの訓練を行います。また残存機能を利用し、日常生活に即した実用的なコミュニケーション訓練も実施していきます。
運動障害性構音障害とは、口唇や舌などの麻痺により、「うまく発音ができない」「声が出にくい」などといった症状を呈します。患者様の症状に合わせて、発語器官(口唇や舌など)の運動や発声訓練などを実施します。
それぞれの訓練と同時に、患者様やご家族に対し、症状の説明やよりよいコミュニケーション方法のアドバイスを行っております。また、高次脳機能障害(記憶障害・注意障害など)に対する訓練も実施しております。
摂食嚥下訓練
摂食嚥下障害(食べる事の障害)に対して、嚥下機能改善を目指した訓練を行います。訓練内容は間接的嚥下訓練(嚥下体操や嚥下反射促進訓練など)と、直接的嚥下訓練(実際に食物を摂取する時の食物形態を検討し、食事時の姿勢や方法の指導・訓練)に分けられます。誤嚥性肺炎(飲み込んだ物が気管に入り、肺炎を起こす事)を防ぎ、食物を口から安全に摂取できるよう援助いたします。