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2014年4月1日より、鷹の子病院に愛媛人工内耳リハビリテーションセンターを開設し、9年が経過しました。この間、聴覚障がいを抱える多くの方々にセンターを利用いただきました。

 当センターは、人工内耳のリハビリテーションに特化した全国にも数少ない施設の一つです。ここでの人工内耳の対象の方は、補聴器でも十分には役立たない最重度の聴覚障がい児(者)の方々です。こうした方々は音声でのコミュニケーションに著しい困難さを抱えていました。しかし、人工内耳の開発により、現在では聴覚を回復することが可能になりました。

聴覚障がいの方の大半は、内耳での音信号から電気信号への変換がうまく機能しないために、脳へ聞こえの電気信号を送ることができません。そこで、内耳の中に電極を挿入し、その電極から音に対応した電気刺激をし脳へと伝えることにより、音の感覚を取り戻す人工内耳埋込手術が試みられるようになりました。

しかし、電極を埋め込んだだけでは、聴力は回復しても、語音をきき分けたり、ことばを理解する聴覚の機能をすぐに取り戻すことは難しく、長期にわたる聴覚リハビリテーションが必要となります。特に、乳幼児の場合、1歳以降に人工内耳の埋込手術がなされ、母子コミュニケーションを基礎として音声言語を習得していくための長期にわたる取り組み(聴覚・言語学習支援)がなされます。これにより、先天性の最重度の難聴児であっても音声言語によるコミュニケーションが可能になります。

これは、1990年以前には夢のような話しでしたが、今では新たな機器の開発や新しい手術方式により比較的容易に取り組むことができるようになりました。人工内耳の埋込み手術は、愛媛大学医学部耳鼻咽喉科初代教授の柳原尚明(前:鷹の子病院中耳手術センター長)先生が1990年に全国に先駆けて取り組みを行い、第二代教授の暁清文(現:鷹の子病院)先生を経て、現在は羽藤直人教授に引き継がれています。鷹の子病院愛媛人工内耳リハビリテーションセンター(通称『でんでんむし教室』)では、手術前から皆様と係わり、術前の聴覚的評価を通して人工内耳の適用の必要性や可能性を皆さんと一緒に検討して参ります。それと平行して、人工内耳の機能の説明やメーカーの選択のための情報提供、術後のことなどを含め、術前から聴覚リハビリテーションを行います。

  手術後の聴覚リハビリテーションでは、人工内耳機器や補聴器の調整だけでなく、聴取能力の向上や音声コミュニケーションを目指し、音の世界の中で生きていくための種々の支援や取り組みをします。特に、乳幼児では、音声言語の習得と言語力の向上を目指します。そのために、それぞれのお子さんの実情に応じた個別支援プログラムを組みます。日常の生活に基盤を置いたコミュニケーションや係わりを中心とした両親支援や、遊びを通して人と係わる力や人とコミュニケーションする力を育て、主体的なきこえやことばの発達の支援、本人の障害への理解を通した自己涵養力の育成などを目指します。

また、中途失聴の成人では、話し言葉を含む音の世界へと聴覚の回復を通して、生活の質の向上を目指します。そのために、保育園、幼稚園、学校、職場等と必要に応じて連携し、また、皆さん方の横の繋がりももてる集い等も開催し、皆さんが日々有意義に過ごせるよう共に考えていきたいと思います。

人工内耳の聴覚リハビリテーションは、あたかも“かたつむり”の歩みのようにゆっくり着実に前進していくこれらの地道な取り組みで、長期にわたってなされますが、その成果は着実に得られていき、きこえが生活に根づいていくものと確信しています。

 これらの聴覚リハビリテーションを担当するスタッフは、人工内耳手術の経験を有する耳鼻咽喉科専門医のもと、3名の言語聴覚士が対応しています。現在は県下全域の乳幼児から高齢者までの300名近い人工内耳装用者の皆さんの聴覚リハビリテーションを一手に担っています。私たちは、人工内耳を装用者の皆さんのリハビリテーションや高度難聴児(者)の支援に全力を尽くし、微力ではありますが愛媛の言語聴覚領域における医療の充実と向上に貢献できるよう、愛媛県下の地域医療の一端を担っていく所存です。