めまいは多くの原因で起こりますが、最も多いのは内耳の障害で起こるめまいです。内耳には前庭や半規管とよばれる体の動きを感じるセンサーがあり、これが何らかの原因で障害を起こすとめまいとして感じます。
一方、めまいで発症する脳梗塞もあります。鷹の子病院では脳神経外科と協力して、精度の高いめまいの診断と治療を行っています。
めまいの診断は十分な病歴の聴取から始まります。眼振(眼球振盪)の有無やその性状を赤外線CCDカメラで観察することは診断の大きな手がかりとなります。鷹の子病院耳鼻咽喉科では、ビデオヘッドインパルス試験(vHIT)やカロリックテスト、前庭誘発筋電位(VEMP)などの内耳機能を測定する検査や頭部MRI検査を行い、さらに精度の高いめまいの診断を行っています。
良性発作性頭位めまい症
良性発作性頭位めまい症は、寝返りをうったときや頭を動かしたときに、急にグルグル回るようなめまいが起こる病気です。中高年の方、特に女性に多くみられます。最も頻度が多いめまい疾患で、命に関わる病気ではありませんが、強い不安や生活の支障を感じることがあります。
症状
- 寝返りをしたとき、ベッドから起き上がるときにめまいが起きる
- めまいは数秒〜1分程度でおさまることが多い
- 吐き気を伴うこともある
- 耳鳴りや難聴は伴わない
原因
内耳にある耳石(じせき)が本来の場所(前庭)からはがれて、三半規管の中に入り込み、頭が動いた時に必要以上に内リンパ流を起こし、めまいを引き起こします。骨粗鬆症と関連があると考えられていますが、頭部外傷、長期間の臥床などの後に発症することもあります。
治療
- 多くは1週間から3週間で自然に治ります。
- 病変部位がわかれば、「耳石置換法」と呼ばれる理学療法で、耳石を正しい位置に戻す治療を行います。
- めまいが持続する場合は、非特異的理学療法(リハビリ)を行います。
- めまいが強いときは、めまい止めや吐き気止めを使うこともあります
- 再発することがあるため、生活の中で無理のない範囲で頭を動かすことが大切です
- 当院では耳石置換法や他の理学療法を指導しています。
メニエール病
メニエール病は、耳の奥(内耳)のリンパ液(内リンパ)が過剰にたまり、めまい発作や耳の症状をくり返す病気です。30〜50歳代の働き盛りの方に多くみられ、原因はよくわかっていませんが、ストレスや疲労が引き金になると考えられています。発作が起きると日常生活や仕事に支障が出るため、症状をコントロールすることが大切です。
症状
- 突然のグルグル回るようなめまい(10分〜数時間続く)
- 耳の聞こえにくさ(難聴、特に低い音)
- 耳鳴り(ゴー、ブーンなどの低い音)
- 耳がつまった感じ(耳閉感)
- これらがくり返し起こるのが特徴です。
- 長期にわたり繰り返すと、聴力が徐々に悪くなることもあります
治療
- 発作時:めまいや吐き気を抑える薬を使用
- その後、発作をくり返さないために
・生活習慣の改善(規則正しい睡眠、ストレスを減らす、減塩、水分摂取)
・内リンパを減少させる薬(利尿薬など)の内服
・血流を改善する薬の内服
- これらの治療を行ってもめまいを繰り返し、難聴が進行する場合は中耳加圧療法を行うことがあります。これは耳に空気を送る装置で、毎日、自宅で耳に圧力を加える治療法です。
- 重症の場合は手術(内リンパ嚢手術)が行われることもあります。
当院では投薬から中耳加圧療法、手術まで幅広く治療を行っています。
前庭神経炎
前庭神経炎は、内耳(体の動きのセンサー)から脳へ情報を伝える前庭神経に炎症が起こり、突然強いめまいが出る病気です。耳鳴りや難聴を伴わないのが特徴で、多くの場合はウイルス感染が関係していると考えられています。
症状
- 突然起こる強いめまい(数時間〜数日続く)
- 吐き気・嘔吐を伴うことが多い
- めまいはしばらく続くが、耳の聞こえにくさや耳鳴りは通常みられない
- 数日後から徐々に改善し、歩けるようになる
治療
- 発作が強いときは、めまい止めや吐き気止めを使用
- 点滴で水分補給を行いながら症状をやわらげる
- 急性期を過ぎたら、前庭リハビリテーションで回復を早める
- ほとんどの場合、数週間〜数か月で改善する
前庭神経炎は命に関わる病気ではありませんが、突然の強いめまいは脳卒中など他の重大な病気でも起こるため、初めての強いめまいは必ず医療機関での検査が必要です。「耳の症状はないのに立てないほどのめまいがある」という場合は、すぐに受診してください。
外リンパ瘻
外リンパ瘻(がいりんぱろう)は、内耳のリンパ液(外リンパ)が、中耳へ漏れ出してしまう病気です。その結果、めまい・難聴・耳閉感などの症状が起こります。
主な症状
- 耳の聞こえにくさ(難聴)
- 耳がつまった感じ(耳閉感)
- めまい、ふらつき
- 耳鳴り
- くしゃみ・力み・大きな音で症状が悪化することがある
原因
- 強い外傷(頭部外傷、耳の打撲など)
- 急激な圧力変化(飛行機搭乗、潜水、重い荷物を持ち上げるなど)
- アブミ骨手術のあとに起こることもある
- はっきりした原因が分からない場合もある
治療
- まずは安静が基本(症状が軽い場合は自然に治ることもある)
- 安静や薬で改善しない場合や、難聴・めまいが強い場合には手術でリンパ液の漏れをふさぐ治療(内耳窓閉鎖術)を行う
外リンパ瘻は放置すると聴力の回復が難しくなったり、めまいを繰り返したりします。診断が困難な病気でしたが、最近、中耳に流れ出した外リンパに特有のタンパク(コクリン)が測定可能になり、診断技術が進歩しました。当院ではコクリンの測定を行って診断精度を高めています。
PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい症)
PPPD(Persistent Postural-Perceptual Dizziness、持続性知覚性姿勢誘発めまい症)は、特定の動作や環境で症状が悪化する慢性的なめまいを特徴とする疾患です。2017年に国際めまい学会によって定義されました。
症状
- 持続性のめまい感:3か月以上ふわふわ、ふらふら、頭が重い感じなどが持続する
- 姿勢や動作で悪化:立ち上がる、歩く、頭を動かすとめまいが強くなる
- 視覚刺激で悪化:人混みや動く映像を見た時に症状が強くなる
- 不安や緊張と関連
- 他のめまい疾患に続いて起こることがある
治療・対策
- 生活指導
- 薬物療法
- リハビリテーション
- 心理的支援
前庭性片頭痛
前庭性片頭痛は、片頭痛を持つ人にみられる反復性のめまい発作を特徴とする疾患です。従来は「片頭痛関連めまい」と呼ばれることもありました。めまいと頭痛の両方、あるいはどちらかだけが現れる場合があります。
症状
- めまい:ふらつき、ぐるぐる回る回転性のめまい、頭が重い感じなど
- 頭痛:片頭痛に伴う拍動性頭痛、光や音に対する過敏
- その他の症状:
・吐き気・嘔吐
・光や音に過敏
・バランス感覚の低下
発症の特徴
- 数分〜数時間、長くても1〜2日続くめまい発作を繰り返す
- 発作は突然始まることが多い
- 頭痛がない場合もあるため、診断が難しいことがある
診断
- 過去に片頭痛の既往がある
- 発作性のめまいと片頭痛症状が関連している
- 他の前庭障害(メニエール病、前庭神経炎など)との鑑別が必要
治療・対策
前庭性片頭痛は「めまい+片頭痛」という組み合わせが特徴です。当院では脳神経外科(頭痛センター)とも連携して、効果的な治療を目指します。

